2009年1月27日火曜日

ファーストシーン

映画にとって、ファーストシーンの担う役割は、計り知れないほど大きい。

題材となる 『テルマ&ルイーズ』最終撮影稿のファーストシーンは、本編と大きく違っている。
今回は、基礎となるハリウッド脚本のフォーマット(書式)に触れながら、ファーストシーンの効果について検証したい。

以下は、Thelma & Louise "Final shooting script. June 5, 1990."
の、冒頭である。

FADE IN:

INT. RESTAURANT - MORNING (PRESENT DAY)

LOUISE is a waitress in a coffee shop. She is in her
early-thirties, but too old to be doing this. She is very
pretty and meticulously groomed, even at the end of her
shift. She is slamming dirty coffee cups from the counter
into a bus tray underneath the counter. It is making a
lot of RACKET, which she is oblivious to. There is
COUNTRY MUZAK in the b.g., which she hums along with.

日本の脚本と、ハリウッドの脚本の形式に大きな違いはなく、「柱」と「ト書き」「セリフ」で構成されている。
上記の"INT."で始まる記載は、日本の「柱」に位置するもので、

〇レストラン(現在・朝)

と、同じ意味を持つ。
因みに、ハリウッド脚本では、柱に「屋内」撮影か、「屋外」撮影かを表記することになっており、
interiorを略した"INT."は「屋内」。exteriorを略した"EXT."は「屋外」を意味する。

続いて「ト書き」となる、LOUISE is a waitress― 以下の表記であるが、
主人公の一人である“ルイーズ”がコーヒーショップのウエイトレスであること。
歳は30代前半で、ウエイトレスには歳が行き過ぎている。容姿は可愛く、几帳面に身なりを整えていること。
などの人物設定が、こと細かに記載されている。
更にシーンとして、カントリー・ミュージックの流れる店内の洗い場で、ハミングしながら仕事をしている様が綴られている。

しかし、実際の本編は、
黒味からモノクロの荒野がフェード・インし、次第に色味を帯びながら、聳え立つ山脈に向かって延びる、一本道が映し出されている。
山の上には晴天が広がっており、赤土の一本道が、天国へ続くロードを思わせる。
映画は、悲劇とも希望ともとれるエンディングを予見させる、実に巧妙なファーストシーンを配している。

続いてシーンは、脚本にも記載されたレストランの店内に移行するが、
洗い場ではなく、接客するルイーズの姿が描かれており、テキパキとした仕事ぶりが、ルイーズの普段の様子を窺わせる芝居となっている。
ここで、ユーモラスな客との遣り取りがある。

テーブルで未成年と思しき若い女性客がタバコを吸っている。
ルイーズは、若い女性客に喫煙を注意する。

          LOUISE
     You girls are kinda young to be
     smoking,don't you think?

ルイーズ「そんな若いウチから、タバコ吸っていいの?」

          LOUISE
     It ruins your sex drive.

ルイーズ「セックス、ダメになるわよ」

その直後、厨房でタバコを吹かすルイーズの姿に切り替わる。
ルイーズは恐らく、若い女性客と同じように、幼い頃からタバコを吸い始め、
今は、セックスに不満を感じているのである。
また、"sex drive"は、これから出掛けるドライブに通じる表現ともなっている。
実に洒落の利いた、面白い場面だ。


更に映画は、ルイーズがテルマに電話を掛け、旅行の算段をする展開となるが、
それは、次回の項目に預けることにする。
因みに、店内で流れるカントリー・ミュージックは、KELLY WILLIS "Little Honey" 。
『テルマ&ルイーズ』は本編で流れる音楽も、実にセンスがよく、
いずれ、サントラの項目を作って、詳しく述べたいと思う。

2009年1月18日日曜日

プロローグ

『テルマ&ルイーズ』('91)は、第64回アカデミー賞および第49回ゴールデン・グローブ賞において脚本賞を受賞した脚本家カーリー・クーリの秀作。
監督リドリー・スコットのスタイリッシュな映像と、作曲家ハンス・ジマーの軽妙な音楽も魅力のひとつである。
主人公は、アメリカの女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノスと、その恋人ティリア・ムーアがモデルとされているが、その真偽は定かではない。
因みに、アイリーン・ウォーノスの生涯は、伝記映画『モンスター』として公開され、シャーリーズ・セロンがアカデミー主演女優賞を獲得している。

映画本編では、几帳面で勝気なウエイトレス・ルイーズの性格と、ルーズで奥手な専業主婦テルマの性格が、事件を境に入れ替わって行く様が、巧妙に描かれている。
彼女たちは、殺人事件を起こしたことを切欠に、ミント・グリーンの'66 T-Birdに乗って逃亡の旅に繰り出す。
結末、警察に追い込まれ、グランド・キャニオンから飛び降りるT-Birdの姿が、飛翔する『幸せの青い鳥』と思えるのは、筆者の思い過ごしであろうか。

本ブログは、1990年6月5日付の"Final shooting script."(最終撮影稿)を元に翻訳し、英語脚本を日本の印刷台本フォーマットに変換して行く過程で、気付いた事柄や内容を考察し、ハリウッド脚本術を分析することを目的としている。
更に、他の脚本の翻訳も手掛け、ハリウッド脚本のノウハウを蓄積できればと考えている。

筆者の英語力は稚拙で、脚本知識も未熟なため、お気付きの点に、コメントを頂ければ幸いである。